紅王子と侍女姫  121

 

 

「ディアナ嬢、そこのガゼボで休みましょう」 

カイトが促す先には四、五人がゆったり座れる椅子が設けられたガゼボがあった。 

広大な庭園には大小さまざまな噴水があり、点在する外灯に浮かび上がる水飛沫や、生垣の新緑が目を楽しませる。ガゼボの中にも花の香りが仄かに漂い、心地よい空間だとディアナは頬を弛めた。椅子に腰かけると支柱の間からは満月に近い月が見え、庭園側の窓を開け放った舞踏会ホールからは軽快な舞踏曲が流れ聞こえてくる。

貴族子息に囲まれダンスに誘われた時は息が止まりそうになったが、カイトがホールへ連れ出してくれたおかげで難を逃れたと安堵した。一方で、貴族息女としてはどうなのかと項垂れそうになる。

そんな自分が東宮に滞在し、何があって王子との婚姻を承諾したのか、未だに不思議でならない。唐突によみがえる記憶の断片が事実だと理解しながらも、目を逸らそうとする自分がいる。それでは駄目だと、このままでは前に進めないと、努力する決意をしたのだ。

だけど幾人もの貴族子息に囲まれる事態になるとは思わず、一斉に差し出された手に頭が真っ白になってしまった。ローヴとカイトがいなければ、回れ右して逃げ出していたかも知れない。

 

「ディアナ嬢の髪色が月明かりに映えて、幻想的ですね」 

「ありがとう御座います。・・・そう言えば、髪色のことで何か言われたような覚えがあります。ぼんやりした色合いだ・・・・そう言われたような気がします。今いる、庭園のような場所で・・・・」

脳裏を過ぎる人物に集中しようとするが、焦点を結ぶ前に霧散してしまう。

どんな状況で、誰に、どのように言われたのか、言った相手が女性なのか、男性なのかも全く思い出せない。目を閉じて頭の奥を探るも、欠片も見つけられない。 

「ディアナ嬢の髪色をそう表現するということは、その人物はきっと濃い髪色の女性なのでしょう。ですが御安心下さい。その方にディアナ嬢がお会いする機会は、もうありませんよ」

それはどういうことかと顔を上げると、カイトは「理由は思い出した時にわかりますよ」と目を細めた。過去を全て思い出した時、その人物も思い出せるだろうか。あまり思い出したい相手ではないことは、何となく感じたが、ディアナは黙って頷いた。

 

「こう言っては大変申し訳ないのですが、思い出して心苦しくなるような記憶でも、こうして思い出していく様子を間近で見ることが出来て、私はとても安堵しております。記憶を完全に失ったわけではなく、心の奥底に沈んだだけだと確信出来ましたから」 

「失ったわけではなく、沈んだ、だけ・・・」

「ええ」 

振り向くと、カイトは目を細めて笑んでいた。心配事が少しだけ軽くなったと嬉しそうな笑みに見え、つられたようにディアナの頬も緩む。 

瑠璃宮で記憶を失ったまま目覚めた時、今にも泣きそうな表情のカリーナが甲斐甲斐しく世話をしてくれたことを思い出す。彼女はディアナが薬湯を飲み終えるたびに、何か思い出したことはあるか、どんな些細なことでもいいから覚えていることはないかと尋ねてきた。ローヴも頻繁に顔を見せ、温かく心配ってくれていた。アラントル領に戻ってからは双子騎士がそばにいてくれた。

そして、忙しいはずの王子が国境の領地に足を運び、今も気遣ってくれている。

 

「皆様にはいろいろな心配を掛け続けて、どうお詫びしていいのか・・・」 

「それだけの価値がある方なのです、ディアナ嬢は」 

自分にそんな価値などない。そう首を横に振ろうとして、ディアナは唇を噛んだ。 

否定することは、ディアナを慮ってくれている人たちの気持ちごと否定するのと同義ではないだろうか。記憶を失った自分を、家族を含め、多くの人たちが心から労わってくれた。その気持ちを、何も覚えていない自分が否定することは失礼にあたるだろう。今できることは、皆の気持ちを受け入れ、前向きに進むことだけだ。 

「そう思って頂けるよう、これからも精進してまいります」 

「その意気ですよ。いつかきっと全てが上手くいくと思って、日々お過ごし下さい。わたしたちも、そう信じております。特にカリーナは、ね」 

美しい魔法導師の顔を思い出し、ディアナはくすぐったいような心持ちになる。

「ですが、決して気負わず、のんびりとですよ。焦っては逆効果になりますからね」

優しいカイトの声に、ディアナは穏やかな気持ちで頷いた。

 

 

「少し・・・、よろしいかしら?」 

涼やかな女性の声に顔を向けると、黒髪の女性が立っていた。その背後には数人の女性の姿

豪奢なドレス姿と首や手指を飾る宝飾のすばらしさ、その立ち居振る舞いから、同盟国の姫たちかも知れないと思え、急ぎカイトともに恭しくお辞儀する。だが、何故姫たちは舞踏会場から庭園へと足を運んだのか。一貴族の娘に何の用があるというのか。

突然のことに動揺したが、カイトから「心配せずに」と言われ、小さく頷いた。 

「これは、同盟国の姫君様方。突然どのような用件でしょうか」 

ゆっくりと背を正したカイトは、ディアナの付添人としてリグニス家次期当主であるロン・リグニスの役を担っている。白と青を基調とした正装に身を包んだカイトは侯爵としての気品と柔和な笑みを浮かべ、同盟国の姫たちを前にしても動じることなく背を正す。カイトの笑みに、幾人かの姫たちは慌てたように扇を広げて淡く染まった顔を隠し始めた。

 

「ええ、伺いたいことがあって足を運びましたの」 

咳払いと共に持っていた扇をパチンっと閉じた黒髪の姫は、その扇を優雅なしぐさで突き出した。 

「そこのあなた。去年、王宮主催の舞踏会に参列されていましたわね?」 

全てを思い出した訳ではないが、姫が言うように自分は去年の舞踏会に参加したようだ。双子騎士に確かめたことを思い出し、ディアナは「はい」と首肯した。 

ただ、どのような趣旨の舞踏会だったのか、そこまでは思い出せていない。断片的に蘇る記憶が事実だとしても、まるで夢幻のようで実感がわかない。その上、思い出す記憶の断片は時系列がバラバラなのだ。

 

「その舞踏会にあなたは賓客として招かれたと聞きましたが、もしかして、今回もそうなのかしら?」 

「畏れながら、ダルドード国の姫様。今日の舞踏会は同盟国会議後の親睦会として催されたもので御座います。同盟国の皆様を歓待するため、多くのエルドイド国貴族が王城に招待されています」

「・・・では、賓客として舞踏会に参列したのではないと?」

「はい。私たちはその中の一組であり、賓客として招かれた訳ではありません」

 

ディアナが口を開くよりも早くカイトが滔々と答える。

黒髪の、ダルドード国から来た姫は眉を顰めて広げた扇で口元を隠した。 

「去年の舞踏会で国王陛下と踊っていた貴族息女は、国王陛下の賓客と聞きました。さらには東宮に滞在していたとも聞き及んでおります。その貴族息女がギルバード殿下の婚約者だという噂が我が国にも流れて来たのですが、それはあなた・・・なのかしら?」

「その噂は新年の挨拶廻りの際、ギルバード殿下が各国で口にされたことが原因でしょう。その件に関しては殿下より直筆の返書が各国に届けられたと聞き及んでおりますが、姫君はお目を通されておりませんのでしょうか?」 

 

ディアナを背に庇うようにカイトが一歩前に進み出て、黒髪の姫に微笑む。姫の背後では、他の姫たちが怪訝な表情で眉を寄せ互いに目配せし始めた。カイトにばかり応えさせていいのだろうかとオロオロしている内に、黒髪の姫の持つ扇が鋭い音を立てて閉じられた。

 

「いい加減になさって! わたくしは、そちらの娘に尋ねているのです。ギルバード殿下がおっしゃっていた婚約者とは、あなたなのか否か、あなた自身が答えなさい」 

おやおや、と肩を竦めたカイトがディアナに振り返る。一瞬どうしようかと困惑するが、他国の姫を前に答えない訳にはいかない。 

「お、畏れながら申し上げます。私と殿下はまだ・・・・いえ、婚約しておりません」 

「あら、そう?」 

大仰に眉を持ち上げた姫はゆっくりした動作で背後の姫たちに視線を向けた。すると、広げられた扇の陰で姫たちが肩を上下させて大きく息を吐く。ディアナの答えに安堵したのだろう、表情からも強張りが消えていくのがわかる。

 

「まあ、そうでしょうね。大陸一の富国強国であるエルドイド国の王太子殿下が、田舎領主の娘を娶るなど有り得ませんでしょうし。・・・・確かに、殿下より今後一切の縁談持ち込みを断るとの書簡が届けられましたが、殿下は若さゆえ誤った判断を下されたのだろうと大臣らが申しておりました。時間の経過とともに目を覚まされ、己が立場を思い出されるだろうと」

黒髪の姫が背後に視線を投げかけると、他の姫たちが意気込んだように身を乗り出した。

「わ、私の母もそう申しておりましたわ。殿下はきっと気の迷いで、あのようなことを口にしてしまったのでしょうと。ですが聡明なギルバード殿下のこと、いずれ御自身の立場に相応しい姫をお選びになるに決まっておりますわ」

「私の兄上たちも、殿方のなさる一時の火遊びを気にする必要はないとおっしゃってました。最後には必ず御自身の立場を省み、お立場に見合った姫を選ばれるはずだと慰めて下さいましたわ」

「我が国の大臣らもあのような書簡、気にする必要はないと申しておりました」

「そうですわね。先ほどギルバード殿下は私に微笑んで下さいましたし」

「あら、私は一度のダンスでは物足りないと言わんばかりの視線を頂きましたわよ」

 

にわかに活気付く姫たちは一斉に声を張り上げ始めた。

確かに王子は多くの姫から熱い視線を注がれ、幾人かの姫たちとダンスに興じておられた。洗練された動作で優雅に踊り、あの場にいた誰よりも輝いていた。さすが我が国の王子だと誰もが羨望の眼差しを向けていた。王子からの視線を、いつまでもずっと、自分だけに向けたいと願うのも無理はないと思う。

王城で過ごした半年間を思い出せたら、失った記憶を取り戻したら、・・・・私も王子と踊ることが出来るのだろうか。自分だけを、見つめてくれるだろうか。

ディアナが思いに耽り俯き掛けた、その時 ―――

 

「でもぉ、ギルバード殿下が他国での新年の挨拶回りに、『次に来る時には愛しい妃とともに訪れる』と声高々に宣言されたと聞いたときは本当に驚きましたわぁ。普段は慇懃な態度と口数少ないことで有名な殿下が、愛しい妃、だなんて! そのことを国王陛下も宰相も御存知だとか」

「ええ、本当に驚きましたわ。まだどのような方なのかは存じませんが、あの殿下が他国に触れ回るほどですもの。普段ギルバード殿下が目にされている女性などでは到底太刀打ちできないほどの、とぉっても可憐な方なのでしょうねぇ」

「年内には、おふたりが揃ってダンスを踊られる姿を目にすることが出来るのかしら?」

「正式な発表が楽しみですわねぇ。どなたか、ご存じありませんこと?」

 

のんびりした口調の、だけど周囲の誰もがぎょっとするような内容の台詞が耳に飛び込んでくる。

声の主は誰だと皆が視線を向けると、姫たちの集団の一番外側にいた女性ふたりが、楽し気な笑みを浮かべて立っていた。唖然として身動き出来ずにいる姫たちに微笑む女性は、他の姫たちより十以上は年上に見える。落ち着いた物腰と柔和な笑み、そして彼女たちが口にした内容に他の姫たちは身動きもせずに、ただ目を瞠るばかりだ。

しかし、すぐに正気を取り戻した黒髪の姫が唇を戦慄かせた。

 

「せ、正式な発表など有り得ませんわ! ギルバード殿下は今夜の舞踏会でも、そのような話をされませんでしたもの! ですからあれは、ただの戯言だったのだと、我が国の大臣たちは」

「まああ。エルドイド国の王太子殿下ともあろう御方が、招かれた国でそのような戯言を口にされますでしょうか? 招待してくださった相手国に対して、それはあまりにも不誠実ですわ」

「だ、だとしても、そこにいる娘が殿下の御相手とは限りませんっ! そのように質素な身なりの、ただの田舎領主の娘がエルドイド国の未来の妃になど、誰が認めましょう!」

憤慨する黒髪の姫に追従するように、他の姫も身を乗り出す。

「そうですわ! 殿下がお選びになる妃が、国端に位置する田舎領主の娘など有り得ません」

「エルドイド国の国王がご存知なのは、殿下がおっしゃった戯言についてで御座いましょう。ですから公布もされず、今宵の舞踏会でも同盟国会議でも、その件に関して何もおっしゃらなかったのですわ!」

 

そうだわ、きっとそうに決まってますわ! の大合唱の中、ふたりの女性は笑みを浮かべたまま、ディアナに視線を移した。ディアナは慌ててカイトを見上げるが、カイトは表情も変えずに黙したままだ。

舞踏会の会場から離れて庭園散策に訪れた人たちが、姫たちが上げる声の大きさに、何があったのかと窺うような顔で近付くのが視界の端に見えて、いっそう焦ってしまう。

ギルバード王子が求める相手が、身分高き女性だったら姫たちも憤らなかっただろう。同盟国の姫たちの中から誰かを選んでいたら、このような問題は生じなかったはずだ。

でも――――、王子はディアナがいいと言っていた。記憶が戻るまで待つと、妃に望むのはディアナだけだと繰り返し語っていた。

言われた当初は、どうして、何があって王子はそんなことを言うのだと困惑した。夢でもあり得ないことだと思った。王子から離れたい、王城から逃れたい、元の生活に戻りたい。そう、切に願った。

やっと自領に戻ってからも王子は何度も足を運び、困惑するディアナをよそに、また会えて嬉しいとばかりに笑みを絶やすことなく過ごされていた。

過去に魔法をかけてしまったがための同情とは、到底思えないほどに。

いつしか王子に会えないことをと寂しく思い、目が合うと胸がざわめく自分を自覚する。戸惑いながらも気持ちは育ち、王子が知る自分はどんな自分だったのか知りたいと思った。失った記憶を取り戻したい、そのために努力したい、と。

そうだ。自分は記憶を取り戻すために、成長する努力をするために王城に来たんだと思い出して顔をあげると、ふたりの女性と目が合った。ディアナの長姉よりも年上に見える女性たちはそろって唇に人差し指を当て、片眼を瞑ってみせる。

 

「ギルバード殿下の婚約者は国端に住まう田舎領主の娘などではない。・・・・そうおっしゃりながら、どうして彼女を問い詰めておられるのですか? それに、彼女の身元を姫君たちがそこまで詳しく御存じなのはどうしてなのでしょう?」

「そ、それはっ・・・」

目を細めて笑みを象る女性の問いに、姫たちは途端に言葉を詰まらせ、視線を落とす。

「彼女のとなりに立つ紳士が姫君の問いに答えても、まだ納得されてはいない御様子。いえ、納得したくないのでしょう? 何度見合い話を持ち込んでも断ってばかりいた殿下が、まさか王女よりも田舎領主の娘を自身の妃に望んでいるなど、到底信じたくはないのでしょう?」

小さく笑みを零す女性の横で、もうひとりが口を開く。

「国王陛下が存じているのは、殿下が妃にと望んだ、お相手のことですわ。そして国王陛下もそれを了承されているとのこと。なんて喜ばしいことで御座いましょう」

「ただ問題は、正式な発表がいつになるかですわねぇ。殿下は政務以外のこととなると、どうしてこうも歩みが遅くなるのでしょう。早く愛らしい妃殿下を娶って、国民を安心させて欲しいものですわ」

 

のんびりした口調はそのままに、ふたりの女性は互いの顔を見て「ねー」と微笑み合う。呆然と目を見開く姫たちの中、黒髪の姫が手にしていた扇を地に投げ捨て、戦慄く声を張り上げた。

「さっきから貴女方は何ですか! 私どもだけでなく、ギルバード殿下をも愚弄する気ですか! 私どもはただ、この娘がどうして王城主催の舞踏会に参列しているのか問うただけですわ!」

激昂する姫の声に近寄ってくる人影が増えたように見え、ディアナは蒼褪めた。

これ以上大事になっては大変だとカイトに目で訴えるが、カイトは相変わらず微動だにしない。揉め事の原因である自分はどうしたらいいのだろう。激しい動悸に目の前がぐらぐらと揺れ、呼吸もままならないほど困惑していると、軽やかな笑い声が場の雰囲気を乱した。 

 

「あらあら。殿下を愚弄していると、そう聞こえましたの? でも、去年までは女性の噂も影も何ひとつなかった無骨な殿下から放たれた突然の発表に、皆さまビックリされたのでしょう? それなのに相手の名前は発表されず、何度問い合わせても素気無い返事ばかりが届く」

「このまま捨て置けないと、同盟会議に同行されたのでしょう? 本当に婚姻は決定したのか、お相手は誰なのか。殿下に直接お聞きしたいと、皆さまはこの国に足を運ばれたのでしょう?」

「同盟国の皆様を歓待しようと舞踏会に参列された貴族息女を声を荒らげて問い詰めたり、身分が衣装がと騒ぐよりも、直接殿下を問い詰めた方がよろしいのではないですかぁ?」

「確かに、その方が早いですわ。頑固で朴念仁で、女性心の機微を全く関知しない殿下がそもそもの原因ですし。・・・ああ、大丈夫ですよ、あなたが気に病むことは何もありませんからね」

 

柔らかな声に目を瞬くと、いつの間にかディアナを挟むようにふたりの女性が両隣りに立ち、気遣うように顔を覗き込んでいた。わなわなと震えながら睨むような視線を向ける姫たちの背後には、多くの人垣が見え、息が止まりそうになる。

このままではいけないと思うのだが、どうしていいのかわからない。

せめて深呼吸して落ち着こうとしたディアナは、ふわりと鼻を擽る甘やかなローズの香りに目を瞠った。どこかで嗅いだ覚えのあるような、気になる香り。何故か、ふわりと気持ちが落ち着いたディアナは、ふたりにぎこちないながらも笑みを返した。

「わ、私は大丈夫で御座います。ですが、出来ましたら場を移された方がよろしいかと・・・・。人が集まって、何事かと・・・・その・・・・・」

 

興味深げに集まる人々の視線が痛い。同盟国から来た姫の、たぶん半数以上が庭園にいて、声を荒げて、何かに苛立っている様子に注目している。これ以上、この場で揉めるのは得策ではない。では、どこに移動したらいいのか。移動した先で、この話はまだ続けられるのだろうか。

どうしたらいいのか困惑していると大きなざわめきとともに集まっていた人垣が二つに割れた。左右に分かれた人々は次々に膝を折り首を垂れる。

その奥からゆったりとした歩調で歩いて来るのは、豪奢な盛装を身にまとった国王陛下と宰相閣下。

庭園での騒ぎがまさか舞踏会の会場にまで及んだかと、ディアナは一気に蒼褪め、その場に平伏しそうになった。  

 

 

 

 

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