紅王子と侍女姫  122

 

 

「麗しい花々が庭園の片隅に集まっていては、せっかくの舞踏会も寂しいものだ。同盟国の姫君は、我が国のもてなしに、なにか不服でもあるのだろうか」 

姫たちは突然この場に現れたエルドイド国のアルフォンス王と、国王から発せられた台詞に息を飲み、顔色を変えて急ぎ低頭し腰を折る。ディアナも腰を折り御辞儀しようとしたのだが、両脇に立つ女性たちにがっちりと腕を取られて妨げられてしまった。 

「いえ、何も不服など御座いません。わたしどもは、ただ・・・涼みに足を運んだだけで」 

「ええっ、とても楽しく、す、過ごさせて頂いております」  

王宮庭園を照らす灯りの下、国王の登場に低頭したまま身体を強張らせる姫たちとは対照的に、ディアナの腕を捕らえて離さないふたりは、空いた片手で広げた扇をゆるりふわりと優雅に動かしている。

どうしていいかわからず狼狽するディアナの耳に、女性が「ねえ、国王陛下に何かお伝えしたいことはないの?」と尋ねてきた。反射的に顔を上げると国王と視線が合う。

 

「あっ、あの、国王陛下。先達ては、大変ご迷惑をお掛け致しました」 

ディアナは招かれたときに国王の前で失神してしまったことを思い出し、詫びの言葉を口にした。王宮教育の講師を通じて謝罪の手紙を届けてもらうようお願いしたが、国王に直接会って謝罪することが出来たと、こんな時だというのに安堵で肩から力が抜ける。

国王は鷹揚に「もとはと言えば、全てにおいてギルバードが悪いのだから、ディアナ嬢が気にすることはない」と笑ってくれた。

いいえ、王子は何も悪くありません。――――そう言いたいが、ここで国王の言葉を否定することも出来ずにディアナが一礼すると同時に、「畏れながら、アルフォンス国王陛下」と鋭い声が割って入る。声の主は黒髪の姫だった。

 

「わたくしは、そちらの御息女が去年、我がギーネスト国の使節団と共に訪れた際に催された舞踏会で国王陛下と踊られていたのを覚えております。もしや大陸中で噂になっているギルバード殿下の婚約者なのかと伺いましたら、彼女は違うと答えました。ですが、そこにいる二人の女性はそれを認めず、あろうことか殿下を貶めるような発言ばかりを繰り返したのです!」 

「ほお」 

「殿下がその・・・慇懃だとか不誠実だとか・・・。そ、それに、国王陛下はギルバード殿下が妃に望まれておられる相手のことを存じていると、そこの二人は言っておりました」 

「ほお」 

国王が視線を向けると、話題に上がったふたりは優雅なしぐさで扇を翳し口元を隠した。しかしディアナからはふたりが舌を出して笑っているのが丸見えだ。黒髪の姫は眉を顰めて口調を強める。

 

「ギルバード殿下がエルドイド国の国端に住まう領主の娘を、それも碌に登城さえしない田舎貴族の娘を娶るなど、そのような戯言をどうして国王陛下がお認めになりましょうか! あまつさえ、殿下を貶めるような言を発するなど、なんと畏れ多いことで御座いましょう!」 

「そ、そうですわ! 一介の貴族息女の分際で、そこのふたりは、聡明なギルバード殿下のことを頑固で朴念仁だとも言って愚弄していましたわ」 

「そればかりか、同盟国の王族である私どもをも嘲弄したのです」 

追従するように訴え始めた姫たちに、ディアナは蒼褪めた。

庭園に集まっている国内外の貴族がこの騒ぎを聞いてどう思うかなど、火を見るより明らかだ。自分が舞踏会に参加した結果、王子だけでなく国王までをも辱めることになろうとは。 

 

「カ、カイト様、この場を収めるにはどうしたら・・・・」

しかし、振り向いた先にカイトの姿はない。

どこに行ってしまったのかと焦るディアナに、「大丈夫ですよ」とふたりの女性が笑う。訳が分からないまま周りを見ると、あれだけ集まっていた貴族たちがまるで興味を失ったかのように舞踏会場へと戻っていく。呆然とするディアナに、何も心配することはないと柔らかに言われた。 

「ここは国王陛下にお任せして大丈夫ですよ。そもそも、あなたに非は何ひとつないのですから。ことの成り行きを黙って見ているに限りますわ」 

「そうよね。悪いのはすべてギルバード殿下ですもの」 

いいえ、王子に悪いところなど何一つもありません。――――しかし、ディアナのその声は、姫たちから上がった悲痛な声に搔き消される。

 

「聡慧なるアルフォンス国王陛下! 御願いで御座います。陛下のお力でギルバード殿下の発した言葉を撤回していただき、殿下の婚姻について、もう一度ご検討下さいませ」 

「エルドイド国の更なる繁栄とギルバード殿下の将来を慮り、どうか愚かな判断をなさいませんよう」 

「大国であるエルドイド国に相応しい王太子妃を改めて選ばれますよう、国王陛下から殿下へお伝え頂きたいのです! これは殿下の御為でもあるのです」

 

庭園にいた姫たちが国王を取り囲み、切なげな涙声で懇願する。

穏やかに笑み続ける女性二人に心配は無用だと言われても、同盟国の姫君に囲まれている国王をこのまま放って置く訳にはいかないだろう。舞踏会場からわずかしか離れていない場所で悲痛な声が響き聞こえれば、何事かと警護兵がやって来るかも知れない。大広間に戻った貴族から、国王が庭園で同盟国の姫たちと何か揉めているようだと伝え聞いた者がやって来る可能性もある。

このままではいけない。だけど、どうしていいのか、まったくわからない。

国王と姫たちの間に入るべきか、消えたカイトを探しに行くべきか混乱した頭で必死に考えていると、大きな咳払いが聞こえた。

 

「我が国が送った書状を、姫君たちはご覧になられなかったのでしょうか」 

国王の背後に立っていた宰相の発言に姫たちの動きがぴたりと止まり、一歩前に踏み出した動きに、姫たちは弾かれたように国王から離れていく。それに満足したかのように宰相は淡く微笑んだ。 

「ギルバード殿下が申した未来の妃に関して、我が国には驚くほど多くの問い合わせが届けられました。そのひとつひとつに、ギルバード殿下は返答をされたはずです。殿下の気持ちはすでに決まっていると、我が国の王太子妃は殿下自身がお望みになられた女性に決まったのだと」 

それよりもずっと以前から、殿下への見合い話の持ち込みは一切お断りしていたはずなのですが、ここにおられる姫君たちの御耳には届いていなかったのでしょうか――――――。

同盟国の姫に対するとは思えない、冷淡な口調で語る宰相から目を逸らした姫たちは、口惜しそうに俯いていく。しかし、どうしても納得が出来ないのだろう。いまを逃せば機会はないとばかりに、黒髪の姫が再び顔を上げた。

 

「ギルバード殿下が妃にとお望みになられた方は、他国の王族でも、エルドイド国の大貴族でもないそうですが、国王陛下は・・・・本当にただの、一貴族の娘がこの国の王太子妃になっても構わないと、そうお思いになられておられるのでしょうか・・・・」

黒髪の姫の声も、胸の前で握り締めている手も見てわかるほどに震えているが、国王に注がれる視線は挑むようだ。

未来の王妃に相応しいのは身分正しき高貴な立場の王族か大貴族の娘であり、質素なドレス姿で怯えたような表情をしている田舎領主の娘なんかじゃない。気の迷いで発せられた王子の言葉で未来の妃殿下が決定するなど、同盟国の王族として看過することの出来ない忌々しき問題だ。間違いは早々に正すべきであり、そのためなら他国の王に直訴することも辞さない。

覚悟を決めたかのような強い眼差しに、他の姫たちは口を挟むことが出来ずにいる。

大陸一の富国強国であるエルドイドの王太子殿下と婚姻関係を結ぶ。それは近隣諸国を含め、同盟国に住まう王族の願いであり、多くの姫が夢見る未来だ。何度見合い話を断られても、王子の気持ちはすでに決まったと言われても、はっきり公布されるまでは足掻く価値がある。 

 

「ギルバード殿下の隣りに立つに相応しいのは、エルドイド国に次ぐ大国であるギーネストの王女である私だけだと父王に言われ育ってきました。・・・・王弟の娘が王太子妃になると聞いた時は仕方がないと思いましたが、一介の貴族娘が選ばれるなど耐えられません! エルドイド国のためにも、妃殿下選びを再検討されるよう、国王陛下から殿下へと御助言賜りたく存じ上げます!」 

静まり返った場に、姫の悲痛な声が響いた。

一旦は退いた他の姫たちからも「どうか、殿下の御目が覚めるように御説得を」「殿下の御気持ちを正す御言葉をお願いします」と声が上がる。自国の者が目にしていたら卒倒すること間違いない光景だろう。

大国であるエルドイド国の王の機嫌が損なわれた場合、国同士の諍いに発展する場合もある。もちろん身分高き彼女たちも、それは重々承知のはずだ。

それでも口を開く。一度だって着いたことがないだろう地面に膝を落とし、したことのない懇願を繰り返す。大国の王太子に嫁ぎたい、未来のエルドイド国王妃になりたい、と。それが自分と自国のためになるから。そのために同盟国会議に同行した。噂の娘を探し、問い詰めた。もしも王子の親である国王が自分たちを哀れと思召してくれたら、輝かしい未来を手中に入れることが出来るかも知れない。

 

姫たちの強欲なまでに率直な叫びを前にして、ディアナは唇を噛む。

王子は妃にするならディアナがいいと繰り返していた。記憶を失ったと聞かされたばかりの時はそれを聞くたび戸惑っていたのに、王子の妃になりたいと切望の声を上げる姫たちを前にして、咽喉の奥で重苦しい何かが詰まっているように感じる。

立場は違えど、いまの自分の気持ちは姫たちと同じだ。

王城に来てから王子に会えずにいることに寂しさを感じ、舞踏会場で綺麗な女性と踊る王子を目にして、息が止まりそうになった。この気持ちは、この場にいる姫たちと何ら変わりはない。立場も身分もない。自分も同じ、ギルバード王子に焦がれる、ひとりだ。

姫たちの意見に国王が『是』といえば、王子といえど『否』はない。姫たちの言うように同盟国の王族か大貴族の息女の中から未来の妃殿下が選ばれることになるだろう。自分は王子に焦がれる、民の一人として遠くの領地から祝福する立場に戻ることになる。

それはどれだけ苦しいことだろう。どれだけ泣くことになるだろう。

もうなにも知らなかった、知ろうとしなかった頃には戻れない。気付けばいつの間にか両手から零れ落ちるほどの感情を身に着けていた。侍女として淡々と日々を過ごしていたことが嘘のようだ。変わったのは王子に起因している。その王子の笑みを思い出すと同時に目の奥が熱くなり、唇が震えた。

 

「ギルバードの気持ちを正したい? 目を覚まさせる? 我が息子ギルバードは、気の迷いで自身の妃を選んだと、姫はそう言うのか?」 

国王から放たれた冷淡な声色と興が醒めたような表情を呈す国王を前に、姫たちから一斉に顔色が失われる。 

「エルドイド国の王子は愚か者ゆえに、国王である私が教育し直せ。王子の妃に相応しい女性を、他国の姫君から選ぶように国王である私が勧めろ。・・・・我が国の世継ぎは未だに親の躾が必要だと姫たちは訴えているようだが、頑固で愚かな我が息子は果たして言うことを聞くだろうか。・・・・どう思う? アンネマリー、ユリアーナ」

 

国王の問いは姫たちの頭上を通り越し、ディアナに向けられていた。いや、ディアナの両隣りに立つ、ふたりの女性に向けてだ。国王が口にした名前は、ふたりの名前なのだろうか。

ふたりはクスクスと楽しげに笑うとディアナの腕を開放し、軽やかな足取りで国王に歩み寄った。

 

「確かに我が国の王太子は頑固で愚かですが、人を見る目は確かなようで嬉しく思いますわ」 

「あの殿下が必死に口説き落としたと、レオンが話していましたわね」 

「自他ともに認める朴念仁の殿下が、どのような顔で求愛したのか、愛の言葉を囁いたのか、その経緯を本人から時間を掛けて、じっくりと伺わなくてはね?」 

「ええ、もちろん! だけど最後の詰めが甘いというか、粗忽者というか、やっぱり残念王子というか。そう思いませんこと? 国王陛下」 

ふたりの女性は柔らな笑みを浮かべた顔で国王に尋ねる。

 

「ま、まさか・・・、おふたりは・・・っ」 

国王のとなりで笑うふたりに、黒髪の姫が戦慄き震える指先を突き出す。一人の姫が訝し気に眉を寄せた直後、大きく目を見開き「・・・そんなっ!」と呻くように声を漏らした。少し遅れて他の姫たちからも次々と悲鳴が上がり、場は騒然となる。 

状況を把握出来ていないのはディアナだけのようだが、それでも何か大変な事態が起きたことは理解できた。姫たちが動揺する原因に女性たちが関わっているのはわかるが、それが何なのかまではわからない。国王のとなりで楽しそうにクスクスと笑い続ける女性を困惑しながら見ていると、いつの間にかディアナのそばには宰相が立っていた。

 

「ようやく姫君たちも己が口が過ぎたと理解された御様子ですね。申し訳ありませんがディアナ嬢、もうしばらくの間、御付き合い下さいませ。そろそろ主役も焦れて、こちらに顔を出されるでしょうから」

「・・・・主役、ですか?」 

宰相の言っている意味を理解しようとする前に、国王の声が響いた。

 

「紹介しよう。ふたりは我が娘でありギルバードの姉で、アンネマリーとユリアーナだ。同盟国会議で議事進行役を担っていた議長と副議長の公爵がそれぞれの夫であり、エルドイド国を動かしている中枢だ」 

「あら、動かしているのは国王陛下ではありませんの?」 

金茶色の髪のアンネマリーがくすくすと笑う。

国王はその問い掛けに、「私は持ち込まれた書類に、ただ印を押すだけだ」と鷹揚に肩を竦めた。 

「印を押すだけなんて。最終的な判断を下す役割は国王陛下にしか出来ませんわよ」 

「お、そうか? では、胸を張っていいのだな」  

癖のない金髪のユリアーナが「もちろんですわ」と微笑むと、国王は背を正して胸を大きく反らす。まるでコミカルな芝居の一幕のようだ。笑い合う三人の足元で姫たちが伏したまま背を震わせていなければ。

 

アンネマリーとユリアーナが同盟国の姫たちと共にディアナの許に足を運んだのは、ただの偶然ではあるまい。同盟国の姫たちが、どんな思惑を持ち大広間から庭園へと来たか、ふたりの姉は知っていたのだろう。事実、ディアナは取り囲まれて質問攻めにあった。もし記憶が戻っていたとしても、他国の王族を相手にうまく対応出来たはずもない。カイトが消えてからは擁護するように傍にいてくれたことに気付き、ディアナの胸に温かいものが込み上げる。 

体の向きを変えた国王は表情を変え、未だ伏せたままの姫たちの頭上に声を落とす。

 

「ここにいる姫たちは、ギルバードの気の迷いから生じた発言の撤回を求めている。田舎領主の娘が王太子妃になるのは間違っている、エルドイド国のためにも身分高い相手を選び直せと、そう訴えているのだが、お前たちはどう思う?」 

「どう思うも何も、殿下がお選びになられた方を、私たちは心より歓迎致しますわ。高い身分や後ろ盾など必要ありませんし、もしも私たちより年上だとか、実は男性だと言われても問題ありません」 

「そうね。愛しい相手を幸せにするために殿下は馬車馬のように尽力するでしょうし、結果、この国に住まう民も幸福になる。もちろん、私たちもね」 

「では、お前たちに異存はないわけだな」 

ありません、と微笑むふたりに、国王は目を細めて笑みを返した。 

「ギルバードの身内に異存はないのだが、姫たちは、まだ何か物申すことがあるのだろうか。もしあるならば、直接、訴えたい相手に物申すがいい」

 

王の言葉に眉をひそめて顔を上げた姫たちの背後で、パリンッと薄いガラスを打ち破ったような音が耳に響く。振り返った皆の目がギルバードの姿を捉えると同時に、困惑まじりの大声が場の空気を震わせた。

 

「なんで結界を! ・・・って、どういうことだ、これは! えっ、姉上がなぜここに!?」

見えないカーテンを振り払うように現れた王子が蹈鞴を踏み、そのまま一歩、二歩と下がろうとする。その肩を掴み、ひょいと顔を出したのは王太子殿下付き侍従長であるレオンだった。

「ご機嫌麗しゅう、アンネマリー様、ユリアーナ様。・・・殿下、あまり大きな声を出しますと、魔法導師様方の御心遣いを無駄にしてしまいますよ。そうですよね、ローヴ様」

レオンは満面の笑みを浮かべ、ディアナの隣りに立つ人物に視線を向ける。視線を追うように顔を向けると、宰相は袖から杖を取り出して振り上げた。杖の先からは細かな光の粒が舞い、王子の背後に薄い膜のようなものを形成するが、あっという間に膜は消えてしまう。

 

「魔法で仕切りを作っただけです。国王陛下と殿下が同盟国の姫君と歓談されておられる間、あらゆる邪魔が入りませんよう、少し工夫したのですよ」

「まあ・・・」

そのおかげで大広間に戻った人が再び足を運ぶことがなく、その後も続く騒動にも関心を持たれることがなかったのかと理解した。でも、どうして宰相が魔法を使えるのだろう。

「え・・・・まあ、ローヴ様?」

窺うように視線を上げると、宰相の顔が魔法導師長に変わっていた。国王と一緒に庭園に現れた時から宰相に変化していたと教えられ、ディアナは全身から力が抜けそうになる。実際、体が傾いてしまい、心配そうに眉を寄せられてしまった。

「ずっと緊張されていたのでしょう。この場は殿下に一任して、ディアナ嬢は少し座った方がいい。ガゼボで休みますか? それとも部屋に戻りますか?」

柔らかな気遣う声に、ディアナは首を横に振る。

この場を離れることなど、出来るわけがない。もとはといえば自分が舞踏会に参加したから起こった騒動だ。目立たぬよう早々に庭園に移動していたら良かったのに、誘われるがままにダンスを踊り、姫たちの関心を引き寄せた自分が悪い。年明け、自領にまで押し寄せた大量の書簡に苦慮したことをすっかり忘れていた自分を恥じながら、ディアナは顔を上げた。

「殿下がなにか責められるようなことがありましたら、微力ではありましょうが、出来る限りの口添えをしたいと思います」

「そうですね。あとでどうなったか話を聞くより、この場に留まって話がどうまとまるかを見届けた方がすっきりされるでしょう。まあ、悪いようには転びませんから、気楽に眺めていてください」

「そうそう、ディアナ嬢は面倒ごとに巻き込まれた哀れな当事者なのですから。国王も殿下の姉君たちも芝居を楽しむ観客の気分でご覧になられるおつもりです。ディアナ嬢、立ちっ放しもなんですから、私の膝上に腰を下ろしませんか?」

一緒に見物しましょうよと、芝上に胡坐をかいたレオンが自身の膝を叩く。丁重に断り背を正すと、大勢の姫に囲まれた王子が呻りながら髪を掻き毟っているのが目に入った。 

 

 

 

 

 

 

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